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Sugarpot 書き下ろし
パズルのかけら

第1章

 1

彼女と初めて出会ったのは、渋谷の改札口。
僕はスーツに身を固めている、
そこらにあふれた、ありふれたサラリーマン。

渋谷の駅前は人ごみでごった返す。
誰かを待つ人。
誰とも無く、来る誰かを待つ人。
いつだって、この街は待つ人がいる場所。
それは、忠犬ハチ公のころから変わらない。

髪の毛の乱れが無いか?
気にして、東急百貨店のショーウインドウに少し目をやりながら、
約束の「ハチ公前」に行く。

土曜日の昼間。
まだ、午後1時をまわろうか?というような時間だというのに、
出会い。
出会いを待ちわびて待つ人。
多くの人がそれぞれのスタイルで「出会い」を待っていた。

そして、そのうちの1人。
僕を待つ人を眺める。
と、そこに彼女はいた。

約束の時間より少しだけ早く着いた僕を待っていたのは、
「初めまして・・・」
と、少し落ち着いた言葉(こえ)で交わす女の子だった。


彼女の名は「沙雪」と言った。
彼女と出遭ったのは、
お互いの友人・知人からの紹介だった。

身も知らぬ同士。
だけど、お互いなぜか。。
すぐに「待ち合わせしている人が、この人だ」とわかった。


沙雪は・・・
春色の薄い桜色のカーディガン。
少しタイトなスカート。
手にぶらさげたカバン。
女の子らしい・・・。
「おとなしげな女性」という感じの子だった。




僕らは、出会ってすぐ。
道玄坂を少し登ったところにある
「Feel」という喫茶店に行くことにした。

沙雪は、口数の少ない子だった。
名が体を現す。
という言葉があるように、

真っ白く透き通るようなきめ細かい肌。
少し、クールな印象の目もと。
横顔の輪郭。
沙雪はとっても、キレイな女の子だった。

喫茶店につくまでの坂道。
出会ったばかりの僕らには、交わす言葉も少なかった。
僕が一言二言話し掛けて、
それに「そうね・・・」なんて言葉が、
幾つか返ってくるくらいで。。


「Feel」という名の喫茶店は、
沙雪が良く行く喫茶店だった。
渋谷の駅から歩いても、10分とかからないだろう・・・。

まもなく、桜が咲こう。という今の季節。
日差しをうけながら歩いていると、
ちょうど、好い距離かもしれない。

「Feel」という木製の小さな看板は、
気をつけていないと見過ごしてしまいそうなぐらいだった。

道玄坂を登りきる手前のビルの一角。
中2階というような階層にある喫茶店。

その店内の装飾は、いかにも無機質な空間だった。

むきだしの空調のダクト。
擂りガラスに囲まれた店。
天井からぶら下がるライトは使われたことがあるのだろうか?
きれいに磨かれたままで、点灯していない。
店内の壁はどこかしこも、コンクリートが肌蹴たままで、
等間隔で壁にかけられた間接照明だけが、
「ぽつり」といかにも寂しそうな感じで、各テーブルを灯す。

これが、おしゃれといえば・・・。
確かにおしゃれなのだろう。


沙雪に習うようにして、
僕は店内、奥の席についた。

店内を見回すと・・・。
そんなにお客はいなかった。
僕らを合わせても、5・6人だ。

時間的には、午後1時くらいなのだから・・・。
軽い昼食としても、喫茶としても。
混み合っても不思議ではない時間なのだが・・・。
やはり、目立たない立地条件だからだろうか?

沙雪は席に腰掛けると。。
メニューに目を通さずに、僕に差し出す。

「えっ?まだ君。見てないだろう?」
「・・・うん。いいの。私はいつも同じだから・・・」
「・・・」

沙雪はそこで初めて、僕と目を合わせた。




僕を見るひとみ。
沙雪の瞳は何かを透かしてしまいそうな・・・。
僕を吸い込んでしまいそうな・・・。
そんな思いがするくらいに澄んだ視線だった。

彼女は、いくつだろうか?
雰囲気はとても、落ち着いているが・・・
僕と同じくらいだろうか?
僕は社会人2年目。
今年で24歳になる。

「じゃ。僕はこのケーキセットを頼むけど・・・君は何にする?」
「・・・私も同じ・・」

店内は、少し暖房が入っているらしい。
めっきり春めいたとはいえ、まだ少し肌寒いからだろう。
静かな店内には、空調の音さえ聞こえる。

「・・・。君、名前はなんていうのかな?」
「・・・沙雪tと言います・・・」
「僕は、隼人っていうんだ。」
「隼人さん・・・」
「そう・・・。」

沙雪は少し小さな声で話す。
落ち着いた声で、小さな声で。
それでいて、どこか。しっかりとした口調で話す。

運ばれてきたケーキセット。
ここのお勧めメニューとのことだ。
ふんわりと湯気が湧き上がるコーヒーの香り。
そして、沙雪が頼んだ「アールグレイ」の香り。
心までも、暖かくしてくれる。
そんな香りだ。

沙雪は僕が一口。チョコレートケーキに口付けるのを見てから、
レアチーズを綺麗にフォークで切って口に運ぶ。

「・・隼人さん・・・」
「?うん・・・?」
「あの・・・それで、ご依頼のほうですけれど・・・」

沙雪は礼儀正しく育てられたのだろうか?
口の中のものを食べながらは話さない。
当たり前といっては当たり前なのだが・・・
今は、当たり前が常識でもなくなってきている・・・。

「あぁ。そうだね・・・」
僕は少し自分で意識しながら、ゆっくりと話掛けることにする。

次へ。

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