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Sugarpot 書き下ろし
昔と変わらないね・・・ 〜sometime somewhere?〜

主題
生きるもの誰もが歳を重ねる。
その中で僕等は大切な人をみつける。
恋人だったり、友人だったり、家族だったり。
「昔とかわらない」ってどういうことなのか・・・?
すこし、知りたくなった・・・

あらすじと前書き
ある日、主人公の正志(まさし)は元の彼女の智子(ともこ)と電車で出会う。
智子は中学3年のとき、告白されて付き合った子だ。
いつしか、自然消滅の恋だった。
何年か連絡もなければ、噂話もこれといってなかった。
「あの頃の僕、そして智子と何が違うだろう?」


chapter 1

「・・・」

目線があった。確かにあれは智子だ。
何か話すほうがいいのか?僕は戸惑った。
でも、そんな気持ちは無駄に過ぎなかった。

「久しぶり・・・」
つかんでいたつり革を手放すと、
ほのかに頬を緩ませて智子はゆっくりと近づいてきた。

飛び乗るようにして乗った、新宿発の急行電車は帰りのサラリーマンで満員だった。
誰もがぎゅうぎゅうに詰め込まれて、カバンを前に持ち替えていた。
しかし、明大前・桜上水・烏山・・・と過ぎ、つつじヶ丘の駅に着くと、少し落ち着いた。
そこで、ふと、目が合ったのが智子だった。

『がたん、ガタン』と、
ゆれる列車は闇を切り裂くライトで僕らを運んでいく。

智子はゆれる車内を手すりをつかみながら、
進行方向に向かって1つまえの扉にもたれていた僕のほうにあるいてくる。

水曜日の帰り道。
「忙しい」が口癖になった背広すがたの僕。
智子はやさしくみえるようにと、微笑んで見える。

「ひさしぶりだね?」
智子の声は、今でもきれいだった。
あの頃よりも大人びた。甲高さがゆるくなって、キレイにきこえる。

智子は白いコートにウールらしいホワイトピンクのマフラー。
ひざぐらいまでのフェイクレザーのスカートにダークブラウンよりすこし軽い色のブーツ。
右手に下げられたカバンはボアのついたハンドバック。
いかにも、いまの子らしい可愛いかっこだった。

「・・・あぁ。ひさしぶりだな・・・」
僕は扉にもたれた身体を少し起こすと智子と場所をかえて智子を扉がわによこした。
そして、背の高いつりかわに左手をあげた。

「ね。すぐに私って、わかった?」

「・・・」
何故か、こんなにも長い間逢っていなかったのに、すぐに智子だとわかった。
智子は少しの間笑顔を絶やさない。
そして、僕の答えを待っている。

「あぁ。すぐにわかったよ」
僕は、智子の目を見て話した。

智子は少し喜んだような顔になっている気がした。
普通ならこういう聞かれ方をしたら
「僕は?」なんてことになるのだろうが、あえてやめた。
なんか、もう答えがすぐそこにみえてるようだったから。

「いつぶりかなぁ?もうずいぶん経つよね?」
「どれくらいかな?」
「もう、何年も前だよね?」


列車はゆれる。過ぎ去る景色・人・街・駅が後ろに流れていく。

「次は調布。調布〜。東府中までの各駅。と多摩センター方面の方はお乗換えです。」
車掌のアナウンスが流れると
電車はまるでその案内を聞いているかのように減速した。
もう、調布駅前の踏み切りに差し掛かっていた。

「ね?乗り換える?」
智子は少し窓の外に目をやって、たずねた。


chapter 2

僕等は急行列車を降りると、次にやってくる京王八王子ゆきの各駅停車を待った。
まだ、キチンと聞いてはいないからわからないが、僕らが降りるのは平山城址公園駅だ。
きっと智子もそのはずだ、引越ししていなければ・・・
平山城址公園駅まで早く着くなら、いまの急行でもっと先までいくべきだったが、
せっかくだから、ゆっくりドンコウ列車にゆられる方を選んだのだった。

「ねぇ。今何してるの?」
智子は冬の冷たい空気に白い息をつくった。

待合ベンチは外の空気にまともにさらされ、
座る人もまばらで座ろうと思えば座れたが、あまりに冷たそうなので遠慮した。

智子も同じ気持ちなのか?
僕に気を遣ってあわせてくれたのか?座る気はなかった。

「・・・今?・・・電車待ってるけど?」
「・・・!?違うよぉ、そうじゃないよ・・・仕事?してるんだよね?」

僕はまじめに答えてしまった。
そう、智子は「現在、なにしてるか?」を聞いたのではなくて、
いわゆる。「なんの職業?」とかそういうことだった。

「そ、そうか、ごめん。そういう意味か?・・・まぁ。サラリーマンだよ」

そう言う僕に、智子はとても自然さを帯びた笑みを浮かべていた。

「智子は?」
僕は変に焦っているようだった。
それは変な答えをしたから。そこに理由があった。

「うん。私もふつうにOL。なの・・・」
智子は「普通に」という言葉を選んで使った。

普通ってなんだかわからない。
けれどお互い、普通一般的な、ごく普通に大人になった気がした。
とくに僕は普通に学校を出て、就職も別にこだわりもみせなかったから、
今の会社に何で入ったかなんて理由もなかった。
普通が難しい世の中だなんていう人もいるけど、僕はそんな気はしない。
普通で悪いことはないし、結構今の仕事も気に入っている・・・。けれど。

「正志君。どんな仕事なの?」
智子は少し手がかじかむのか手を少しあわせてなでていた。

「・・・電気製品の会社。VASAOなんだ・・・」
「そうなんだぁ。」
「そこで、いまはTVの担当なんだ・・・色々配置換えられるから一定してないけど」

北風が強くなっている。
もう、今年も終わる。
冬がいっそう厳しくなる。
少し、僕は空を見あげた。

「・・・そう・・・。」
智子と僕の間に北風は容赦なく吹き付ける。

「智子は?」
「うん。わたしは・・・旅行代理店の受け付け・・・新宿なんだよ・・・」
「ふ〜ん。そっか、俺は品川なんだ。じゃあ、結構また逢うかもな・・・」
「うん。」

「3番線。ご注意ください。八王子ゆきの各駅停車がまいりま〜す」


chapter 3

『ガタン。ごとん』
電車が真っ暗い線路を切り抜ける。

各駅停車はさすがに混み合うこともなくゆったりとみんなが座れるくらいだった。
二人は並んで端っこの座席に腰掛けた。
理由は簡単、寒いから。扉の開くところから遠くて暖房の効きが良いからだった。
電車に乗り込んでからは、しばらく話も途絶えたが、智子が急に切り出した。

「ねぇ。こうしてると、何か昔を思い出さない?」

むかし・・・。むかし。僕らが中学生だったあの頃。
確かに智子と遊びに行った。
中学生から高校の1年の2学期ぐらいまでは会っていた気がする・・・
よく、僕等は渋谷へ映画を見に行ったりして遊んだもんだった。

「あぁ。そうだな・・・」
「いつからかな・・・会わなくなっちゃったのは・・・?」

僕と智子は目を合わせないでいた。
お互いの声だけを聞いていた。隣同士ではなしている。

「いつからだろうな・・・」

言葉は切れ切れになった。
僕にも智子にも何時からなんて答えが出るはずはなかった。
何時の間にか終わっていた恋。
始まりは今でも鮮明で。記憶が確かなのに・・・
終わりは、まるで花火のあとの煙のようにフェードアウトしてあった。

「もう・・・そんなこといいよね?そんなこと話しても・・・しょうがないよね?」
智子は少しだけ僕に視線を向けていたようだったが、合わせようとおもわなかった。

僕はあの頃に戻りたいなんて思わない。
けれど、あの頃は今でも懐かしくて、恋しい気はした。
あの頃の僕は今思えば恥ずかしいくらい幼いけれど、嫌いじゃない。
そして、あの日の智子は今でも記憶にハッキリとある。

「・・・そんなことはない・・・けど」

「そう・・・」

智子は少し、間を置いて話を続けた。

「わたしは、たしか高校1年生のちょうど今頃だったと思うよ・・・」

「そうだったかな・・・」
「どうしてかなぁ?何時の間にか会わなくなって・・・何が原因だったんだろうね?」

僕はわからなかった。
付き合い始めたのは智子に告白されたあの日、とってもいじらしくて可愛かったから。
キチンと理由も覚えているのに、別れ際・・・というか会わなくなった理由は忘れている。
もしかしたら、理由なんてなかったのだろうか・・・?
なんとなく・・・会わなくなっていた・・・そんなところかもしれない。
でも、喧嘩別れとかそんなんじゃないことは確かだった。

「・・・俺が会わなくなったからだとは思うんだけど・・・」

僕には続く言葉は見つけられなかった。
二人が会わなくなった理由は
『僕が会いに行かなくなった。会う約束をしなくなった』
それだった。
けれど、では何故、
『会いに行かなくなった。会う約束をしなくなった』か、はわからない。
だから、こんな言い方をした。


chapter 4

「かわらないね。正志くん・・・」

電車がいくつかの駅を停車し終えて、東府中に差し掛かる頃。
智子は何気なく中吊りの女性雑誌の広告をながめながら呟くとその目を向けた。

「ほんとに、そういうところかわらないね・・・」
智子はすこしほほえみをつくった。
かすかに・・・そんな程度に。

「ほんとはね。わたしが約束の時間を破ったんだよ・・・」
智子はまたまなざしをそらした。

「正志君と渋谷で会う約束していたのに、わたしは行かなかった・・・」

僕は意外だった。全くそんなことは覚えていない。
忘れるべくして忘れたか。忘れるように心がけて忘れたか。
とにかく、完全に記憶がなくなっていた。

「そうだった?」
「・・・連絡しないといけなかったのに、そのあともできなかった。しなかった」
「・・・」
「それからはまったく、会わなくなったんだよね?」

僕はあの頃の智子が頭に浮かんだ。
初めてあったあの日。
初めて出かけたあの日。
初めてキスしたあの日。
いつだって、智子と一緒だったあの頃。

「・・・そうだったかな・・・」

「・・・そういうところ。かわらないよね?」
智子はささやくように話す。

「かわらない?」
僕はかわらないのだろうか?

「うん」
智子はそう言う。

けれど、かわった。
きっと・・・僕は変わった。

「変わったと思うぜ・・・」
「ううん。かわらないよ。正志君は・・・」

かわっていないように見えるなら、それはきっとかわらないように変わってきたから。
僕の心が変わらないはずはないから。
変わらないように変わりつづけてこれたなら、それはきっと「かわらない」ようになる・・・

「ねぇ。わたしはどうかなぁ?」
「智子は智子だよ・・・だけど、わからない。変わったか?なんて・・・」

正直。わからない。こんなチョットの時間では。
でも。智子のすがたを見かけた瞬間。
僕は「智子だ」と、すぐわかった。それだけは確かだ。
けれど、きっと・・・

「そう?・・・少しは大人っぽくなった?」
「あぁ。それは確かだな・・・」

赤いリップがすこし喜んで見えた。
そして、すこし悲しげにも見える。


chapter 5

「じゃあ、またね。」
「あぁ。」
「また。いつか、どこかで逢えたら・・・」
「そうだな・・・」

いつか、どこかで・・・
キレイな響きで・・・
でも、とても便利で薄っぺらな「あいさつ」で僕等は別れた。

智子はいつだって、いつまでも、智子のまま・・・
僕は僕のまま。

けれど、きっと変わりつづける。
この世界のように。
そして、今日・・・。
僕もわたしも。みんなが、他の僕やわたしと出会うことになる。
旅がおわるその日まで・・・


the end     あとがきへ



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