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「家出王子と偽巫女姫」
タイトル  家出王子と偽巫女姫   作者 琴理 さん

「何だ、お前?」
森の真ん中で、その場に似合わないほど綺麗な服を着て座り込んでいる人物を見て呟く。
「何処の姫君だ?置いてかれたのか?」
「立ち去れ、今すぐ!」
その声にどこか引っ掛かりを覚えながら、彼女の着ている服を見直す。
白い上等の生地、いくつかの宝石...
どう見ても巫女の中でも上位の巫女姫だとしか思えない。
「お前、生け贄か?」
「そうだ。もうすぐ魔物がやってくるから、ここから、この山から出て行け」
「やだね」
あっさりと放たれた否定の言葉に目を丸くしながらも、事が重大であることを説明しようとする。
「やだって言ってんだよ、巫女姫。そんなバケモンなら俺が退治してやるよ」
「何を言っている??死ぬことになるぞ?!」
「死なねーよ」
「何故言い切れる?地を割き、洪水を起こし、岩を溶かす奴を相手に勝ち目があるとでも...」
「さあ。実際俺は会ったことないからな。でも、死ぬ気は無い」
声を荒らげて立ち上がった巫女姫は割と背も高い。
強いて言えば自分より微妙に低いぐらいか。
そんな事よりも気になるのは何故、魔術、召喚術、武術、その他諸々の道に長けた
巫女姫がこうして生け贄になっているのかだ。
「死ぬ気が無いから戦って勝って生きるんだよ」
「...お前、狂っている」
訳ありげな瞳で少し俯いて、説得を諦めたかのように巫女姫は座り直す。
「巫女姫、名前は?」
少し考えてから旅人を見上げるようにして口を開く。
「リンカ」
「俺はレオネル。宜しくな」
「宜しく」
「じゃぁ、俺は一応隠れる。人が居ちゃ、魔物も近寄らないだろ」
「勝手にしろ」
返事はややふてくされたような響きが篭っているが、少なくとも拒否はしていないと見える。
次第に暗くなるに連れて森も不気味になってくる。
「邪気が充満してきた。今なら未だ間に合うぞ?」
座ったまま、振り向きもせず、殆ど感情の篭らない声で告げる。
「何度言ったら解るんだ?俺は人一人見殺しに出来るほど冷たい心は持ってないんだよ」
丁度言い終わった所で風が強くなりはじめる。
リンカを取り巻くように吹き荒れ、長い髪を撫で上げる。
魔物が現れるのを今か今かと待ちながら、
相手には判らないように様子を覗き見ると、
リンカの瞳は先ほどとは反対と言えるほどに変わって意志の強いものになっている。
四方八方からがさがさと獣が通り過ぎるような音が耳に入り、
気味悪い陰と共に悪寒が走り、動けなくなる。
陰があらゆる方角からリンカの周りに集まった時、それは空中に浮かびあがり、人の形を成した。
「ほう、中々だ」
何処かの店で品定めでもするかのように、リンカを見下ろして言う。
「悪くない...」
そう言って生け贄に触れようとした時、空気に亀裂が走るように、雷光が横に走った。
未だに動こうとしない足に命令を出しながら目を開くと、
『魔物』と呼ばれた男が煙の登る右腕を押さえて苦しそうに叫び、喘いでいる。
リンカは口を小さく動かしながら袖に手を入れ、
隠し持っていたらしい短刀を取り出して振りかざす。
が、止めを刺せると思ったその時、男が大振りの剣を振った。
「うっ...!」
かわすのがやっとと言う状態で、
どんどん後ろに下がって行くリンカの表情には明らかに焦りの色が浮かんでいる
――――助けなければ、そう思った時、やっと走り出すことが出来た。

ゴンッ

鈍い音が響き、崩れ落ちた大きな背中の後ろに覗いたのは呆気に取られたような巫女姫の顔。
「...ホントこれが効かない人間って居ないのな」
大きな口を叩いておいて自分のやったことがやったことだった為、
弁解の言葉も思いつかない。
実際、腰に装着していた剣は剣としての役割を果たしていない。
それどころか、こん棒代わりに使われる始末だ。
流石に強く殴ったらしく、倒れた男の後頭部には瘤が出来ている。
「さて、魔物もあっけないな。正体ひんむいてやるか」
未だに驚いたような表情を浮かべるリンカの前に屈み込んで男を転がす。
「どうする?」
聞かれてはっとしたように、表情を直して考える。
「魔力を奪ってしまおう」
「記憶消せば?」
「駄目だ。これからこの男は魔力を使って犯した罪を償う必用がある」
はいはい、と意外にきつい言葉に頷いて、呪術が終わった所で男を引き摺って村に向かう。
                                  
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