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Sugarpot 書き下ろし
タイトル  〜 ろくでもないクリスマス 〜  作者 Tao さん

クリスマスなんてろくなもんじゃない。
…そう、思ったんだ。
去年のクリスマスから。


     *


悪友たちと飲んで歌って騒いで、帰り道。
クリスマスだからどこまでハメを外しても大丈夫なんて事はなく、
クリスマスだから主のご加護があるなんて事もなく、
そりゃあ思いっきり飲酒運転で、
しかも遊び疲れて眠くて、
…事故ってしまった。

友人たちを送り届けて、あとは自宅へまっしぐらって時さ。
不幸中の幸いかもしれないし、逆にそれで安心してたからの事故かもしれない。
でも自分だけってのはやっぱり納得が行かなかったみたいで、
「ちくしょー、なんで俺だけ…」
なんて、病院で目が覚めて第一声に言ったらしい(自分の記憶にはないけれど)。

けど、問題はそこからだったんだ。
事故自体じゃない、その先さ。
…見えるんだよ。
見えるのさ、多分霊ってやつが。
大抵はぼやーっとしてて輪郭しか分かんないが、色でイメージが伝わるんだ。
赤っぽいのはなんか怒ってる。
青っぽいのはなんか悲しんでる…ってね。
死んだやつの霊だろうし、嬉しいとか楽しいとかの色は分からないけど。
スゴイよな、当然自慢するよな。
…見始めたのが病院でなきゃ、ね。
「病院じゃ毎日誰かが死んでる」なんて言われる通り、もう四六時中見えてたよ。
さすがにうんざりしたね。
ほとんど青っぽくて、なんかこっちまで暗ーい気分になってくるんだ。
病は気からって言うけど、おかげさまで退院が予定より1週間遅れたよ。
で、退院が遅れたからってわけじゃないけど(予定通りでも同じだった)、
テスト期間を病院のベッドで寝て過ごし、補習の期間もまだ病院で、晴れてもっかい同学年。
まったく、散々な目に遭ったもんだって自分に同情したよ。

まぁ、病院を出たら結構大丈夫になった。
そうそうどこにでもいるもんじゃないらしい。
ふと、道端とかどっかに目を止めると、たまに見えるくらい。
おかげで日常生活は普通に過ごせたよ。
試しに墓場に行ってみたんだけど、全然見えなかった。
…ひょっとすると、俺が見てるのは霊じゃなくて残留思念ってやつなのかもしれない。
まぁどっちにしろ、人が死んだってのが分かるだけだけど。

それから、事故に遭ったわけじゃないから当然テストを受けていたはずの悪友たちと
一緒に(どうも点数が悲惨だったらしい)同じ学年を繰り返して、
同じような(まぁ霊っぽいのは時々見えるけど)日々を過ごして、
―またクリスマスが来る。


     *


いつものように悪友たちと集まって、飲んで、歌って、騒いで。
しかし去年の事を気にしてか、騒ぎすぎることもなく早めに切り上げることに。
やはり去年の事を気にしてか、俺に誰かを送る仕事は回ってこなくて、自然一人になる。
なんとなく、その辺をぶらぶら歩いてみることにした。
早めの時間だからさっさと買えるのは癪だったし、家に帰ってもすることがないし。

「さっさと帰れば良かったな…」
しばらく歩いた後、後悔。
煌びやかなイルミネーションの中、よく見ればぼやけた赤青の輪郭が浮かんでいた。
クリスマスだからみんな幸せなんて事はなく、
クリスマスだから主のご加護があるわけでもなく、
やっぱり誰か彼かは死んでるんだ。
何となく多いような気がするのは、イルミネーションに紛れて見えにくいからと、
いつもより集中して探していたからだろうか?
それとも、年の瀬に多いと聞く自殺者のせいだろうか?
どちらにしろ、ろくでもない話だ。
だいたい、クリスマスだって浮かれてるやつら(去年の俺も)は、なんで浮かれてるんだろう?
主の誕生日なんて言っても、どうも季節が違うらしいし、
サンタクロースだって貧しい子供に施しを与えた聖人ニコラスが元だし。
恋人云々なんてエピソードは本来さっぱりないし。
浮かれたいやつらが勝手に騒いで、
でもどこかでむなしく死んじまうやつがいる。
まったく、なんて日だ!

そうして世の中ってやつに頭の中で文句を言いながら、それでも足は進んでいたらしい。
―ふと、見上げると、そこは教会らしき建物だった。
気付かないうちに郊外まで歩いてたんだろう。
扉は閉まっていたけど、賛美歌が外にも聞こえてくる。
『Silent night, holy night...』
「まったくだ…」
思わず相槌。
静かな夜、神聖な夜。
騒ぐもんじゃない。
…といっても、この中で歌ってる子供たちも、家に帰ればパーティーだろうけど。
「とことん終わってる夜だよな…」
そうつぶやいて、振り返ると…
「なんだ…?」

わらわらと、ボロボロの服を着た人たちが集まってきていた。
…ホームレス、に見える。
施しでも受けに来たのかと陰に下がって黙って見ていると、
「…し………こ……る」
何かつぶやきながら物を置いていく。
それらはほとんどがガラクタにしか見えないが…
一通り物を置く作業(膝くらいの高さに積み上がっただけ)が終わると、
今度はみんな手を合わせ、さっきのつぶやきが歌になった。
「きーよしー、こーのよるー…」
「な…」
賛美歌だ。歌詞は日本語だけど。
みんな一心に手を合わせて歌っている。

『清し この夜 星は光り
  救いの御子は 馬槽の中に
         眠り給う いと安く』

―フワッ
「あ…」
赤や青の光がいくつか集まっている。

『清し この夜 御告げ受けし
   牧人達は 御子の御前に
      ぬかずきぬ かしこみて』

光はフワフワと周りを回っている。

『清し この夜 御子の笑みに
     恵みの御代の 朝の光
         輝けり ほがらかに』

―歌が、終わる。
そのまま黙祷。

―スッ
「え…?」
祈る人たちの一人から、白い光が立ち上っているように見える。

―スッ、スススッ
それから次々と、その場の全員から光が上る。
そして、赤や青の光が、白い光の柱の中で、その光に染まっていく。

―サァッ
建物からも、幾条もの光が柱に加わる。
巨大になった光の柱の中を、白く染まった光たちがゆっくりと上っていく。

みんな仏教風に手を合わせているけど、

教会に見えた建物はよく見ると孤児院だったけど、

その場は…なんて言うか…

神々しかった。

神も仏も信じちゃいないけど、
今この場だけは、
あの光の柱は天まで届いている気がする。
理由は分からないけど、確信できる。

そして、
気付けば俺も、
…手を合わせて、祈っていた…


     *


それから、
俺はクリスマスになると毎回カラオケで『清しこの夜』を歌い、
「なんでだよー」とか言う友人に、
「うるさい、黙って祈れ馬鹿」とか言って、
毎回みんなで黙祷してるんだ。

クリスマスなんて、ろくでもないけど…

捨てたもんじゃ、ないって、

捨てたもんじゃないようにしようって、さ。

-Fin-
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