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Sugarpot 書き下ろし
  風のある風景 

第1章 風が吹き始めた日

 1 

あまりにいい天気だった。
朝、今日は風もゆるかったのでベランダにでた。
起きたばかりの頬を通り過ぎる風も心地よかった。
目覚めは悪い方でないが、スッキリとした感覚が全身を包んでいく。

冷たい朝の空気が心地よく、頭脳(あたま)がクリアになっていく。
自然と身体を伸ばしたくなる。
呼吸も深くなる。

「ふぅ・・・」
何かため息のようなものがもれる。

昨日の夜は遅く寝た方だった。
課題で出された英語の宿題を伸ばし伸ばしにして放っておいた「付け」だ。
今日までに提出せざるを得なかったから、一夜漬けになった。
頭上ではもう何時間も前におきたのであろう小鳥たちが忙しなく会話している。

僕は、ゆっくりと視線を街にずらす。
小高い山の高台にある僕の家からは、街が見渡せる。
秋になれば、すぐ眼下にはすばらしい燃えるような紅葉がひろがる。
特にここ、2階の部屋からは見晴らしがいい。

街はまだ動き出していないのだろう。
町の中心を東西に結ぶ国道でさえ、車の往来があまりないようだった。

そのまた視線の先に僕の高校がある。
正直言って、高校生活は実に億劫だった。
昔の人。というのか「実際に通った」人たちを考えたら、楽なのだろうが。。

2023年現在。僕の高校は勿論、高校と言う高校。全てが「通信制」だ。
2020年に「教育指針」が取り決めたことで、
「ネットで授業」を行うことになった。

中学校までは、学校に毎日通うが、義務教育を終えた後の教育(学校)はネットで授業する。
大学・専門学校も、専門課程でさえも実習・実験等、以外の部分では
ネットを介した講義がほとんどになった。 少なくとも、公立と呼ばれる学校はそうなった。

世界の先進国の例に倣ってということもあるのだろうが、
少子化になって子供の数が減ったことと、国公立の教員の削減をせざるを得なくなったことが
一番の理由のようだった。

だから、僕らは学校に行かずに家にあるコンピュータの前で授業を受ける。
先生・クラスメートとも実際には会わずに授業をするし、給食・弁当なんていらない。
でも、それが毎日のわけではない。

体育の授業などの実習教科が週に一日だけあり、「実習日」といっている。
調理実習・製図・工作・美術・音楽・化学実験など・・・。
実習しないといけない教科を、週に一度学校に通ってこなすためだ。

それと、やはりテストの時期だけは通う。
不正の無いように。だろう・・・。

実は今日、土曜日がその「体育授業の日」だった。
今週は「体育」が実習日の科目だったからだ。
また、これは各クラス定まった曜日があって異なっているが、僕らのクラスは土曜日だった。


2

眠気まなこの目をこすって、朝食を食べた。
普段は大概、トーストにジャム。コーヒー。なのに・・・。
今日はご飯だった。
塩辛いほどの焼き鮭に、たまねぎと豆腐の味噌汁。
昨日の残りのほうれん草の胡麻和えのおひたし。
僕は和食派(和食党)なので、こちらの方が良い。

母親は機嫌がいいらしいかった。
朝から面倒な用意をしたことからわかる。
きっと、今日の午後。母が高校時代の級友と会うことになっているからだろう。

僕はかきこむように食事を平らげると、すぐに2階へ戻った。
出かけるまでの時間が無いわけではない。
ただ単に「早飯食い」だからだ。
よく、母に「ゆっくり噛んでたべなさい」といわれるが、おかまいない。

赤いネクタイでシャツをしめて、紺のブレザーに腕を通すと、
クローゼット横に立って、整髪料で髪を整えながら姿見を覗く。

土曜日しか着ない制服はまだまだシッカリとカタチを残している。
「制服に征服されている」なんて言っている人もいるが、
どうせたまにしか着ないなら、「まぁ。どうでもいい」と思う。

一階に階段を駆け下りると、
「今日。夜までには戻ってくるから。ね」と、母は居間から顔を覗かせていた。
どうやら、忙しない。
もう、食べ終えた食器の跡形は無い。
食器洗い乾燥機に入れ終えたようだ。
化粧したり、なにかと出かける前の準備があるのだろう。

「あぁ。うん。別に急いで帰ってこなくてもいいから・・・」


3

家を出ると、ふと空を見る。
梅雨入りしたというわりには、キレイに晴れあがった。
空の色がうすく、あわく、青く広がっている。
雲の白さも嫌味が無い程度で、美しく思う。

空の向こうには宇宙がある。

僕が幼い頃には「僕が大人になった頃にはみんなが宇宙にいける」といわれたものだった。
けれど、実際にはあと数年で「宇宙にいける」というのは現実的ではなかった。

昔の人たちは
「鳥のように手軽に空飛べるようになっている」とか「平均寿命が100歳になる」とか・・・。
色々と未来に託した夢があったようだけれど、
人間の基本的な能力(?)は変わらない。ようだ・・・。

「・・・自由に・・・かぁ・・・」

僕は空に目をやった。

ハトが飛んでいた。

僕の目には彼が何の為に飛ぶのか?わからない。
えさを探しているのか?
何がしたいのか?

誰かは言う。
「鳥のように自由になりたい・・・」

本当に彼は自由なのだろうか?
どのように自由なのだろうか?

僕には「自由」には見えなかった。
空を飛びたいから飛んでいるようには見えないから。

羽を傷つけても飛んでいるハトだっている・・・。
羽を休められないから・・・。

彼と僕とで何が違う?

休めない。のは・・・。休みたくないから・・・?
羽を休めたとき、彼は生きていることを拒否したことになるから?

彼と僕とで何が違う?

鳥たちは羽ばたく・・・。
自由に空かけめぐる・・・。
けれど、彼たちは羽ばたきつづける。

明日も。。ずっと・・・。これからも・・・。


4

僕は考えながら歩くのが好きだ。というか、癖だ。
いつも、何か浮かべている。

何も考えるような事案 (こと)がないときでも・・・。
歩いている床のタイルの数をかぞえたり、
電信柱の間が何歩でいけるか?数えたり・・・。
電車なら、駅の間をどれくらいの時間で走るのか数えて、距離を算出したり・・・。
とにかく、何かは頭に浮かべていた。

これは、ずっと幼い頃からの癖だ。
小学生のころから、切符や車のナンバーをみれば、必ずと言っていいほど
「足し算・引き算・掛け算・割り算」を使って「10」にすることを考えていたから。
もう、癖も癖だ・・・。

だから。
電車に乗るときは「文庫本」をかならず持っていくが、
それが無くても、きっと退屈はしない。

僕の学校は歩いていける場所にあった。
この辺には、駅3つ向こうに1つ学校があるくらいで、高校は近辺にはあまりない。
だから、僕のように歩いてこの学校に行けるヤツは少ない。
少しでも。ゆとりをもって学校に通えるのはありがたいことだ。

家をでて、ゆっくりと下る山道を10分ほど行くと、 商店街に入る。
商店街とは言っても、騒がしいことには縁遠い。
例え、夕刻でさえも、ごったがえすことはなく、すんなりと買い物ができる。

隣町は多少栄えているから、スーパーマーケットもあるが、
この街はいわゆる典型的な「商店街」が広がっている。
  (逆に典型的ではなくなりつつあるが・・・)

特に、朝などは静かなものだ。
いつも。高校に通う学生が通るだけで、
商店も古ぼけた木製の看板が逆に愛らしい「豆腐やさん」しか開いていない。

その商店街を抜けると、多少道幅の広い道路(国道)が見えてくる。
ここはさすがにトラック・バス・ダンプ車が通る。
渋滞はしないが、出し惜しみしたようなスピードで車が過ぎる。

その道路を渡るために多少遠回りして、信号まで行かざるを得ない。

僕は信号を待っていた。

「・・・」
体育の授業。 今日はマラソンじゃないよなぁ・・・。と胸の中でつぶやく・・・。

と!?

「おはよう!」と、肩を叩かれた。
                                   
                    
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