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Sugarpot 書き下ろし
タイトル 「無題」

第1章 はじめてはプールサイド

時間とは、おかしなものだ。
頭のなかでは、いくらだって巻き戻すことが出来る。
でも・・・。
初めて自転車に乗った日はいつだったか?
なんてこと、ほとんどの人が覚えていない。
それは初めてのことであっても、いわばどうでもいいから・・・。
きっと、そこにつながる。


『はじめて』どうも、おんなはおとこに比べてそのことには敏感だ。
はじめて、逢った日。はじめて、話した日。はじめて、食事。はじめて、キス・・・
はじめてのことも多少なら、俺だって覚えている。
けど、正確性は低く。なおかつ、それも特に気にはしていない。
はじめて。だけでなく、そのとき何をしていたか?なんて、どうでもいいしすぐ忘れていた。
けれども、彼女は違う。

「ねぇ。きいてる?」
俺はプールサイドに寝転がって空を見ていた。
「ねぇっ!?」
彼女はすこし声を大きくした。

「ああ。きいてるけど・・・」

「じゃぁ。あのこは何なのよ?」
「知らないよ・・・」
俺は、空を見たまま答えた。

「知らないって?何で知らない子が、笑って手を振ったのよ!」

俺と彼女は付き合って3ヶ月が経っていた。
「知らないもんは知らないよ・・・」
「いつも、そうじゃない。この前も、ひろみって子。遊園地行ったとき・・・・・」
確かに、俺は正直いろんな娘と遊んでいた。
でもそれは、遊んでいた。そう、過去形だった。
3ヶ月前以前は付き合っていなかったのだから、別に何も言われることは無いのである。
それなのに、毎回こうなる。と、いうことはこの先も当然どうなるか?知っている。

急に亜季は帰ってしまう。
   俺一人で家に帰る
電話がなる。
   『反省した?』って亜季が言う。
ホントは、3ヶ月以上前のことだからしょうがないことだと思うが、一応あやまる。
   亜季も家に帰って、冷静に考えたらそのことに気づいているからすぐに「ゆるす」と言う。

と、まぁ。こんなところが山だ。

「もうっ。きいてるの?もういい。わたし、帰る」
やっぱり、予想どおりだった。
「おい。まてよ!」
だが、今回は本当に知らない子だったのもあって引き止めたが駄目だった。

いそいそと歩いていく亜季。
タオルも忘れたまま、急用でも出来たかのように遠ざかっていく。
『なんだよ。亜季のやつ、タオル忘れやがっていいのか?』
背中を見送ったが、こっちを向こうともしないのでそのままにした。


『しかし、なんだったんだ。あの娘・・・』話したことも無ければ、見たことさえなかった。
でも、確かにあのこは、俺に向けて手を振っていた。
俺は誰か俺の後ろに人がいるんだろうと思ったが、いない。
ホントに不思議だった。

亜季は帰ってしまったが、その娘のことを考えてみよう。思い出してみよう。と
おれはひとり残って、空でも見て色々考えてから帰ることにした。

『でもあの娘、きれいだったな。肩あたりまで伸びた髪。
 すこしだけ焼かれた肌。名前はなんて言うんだろう?
 にっこり、笑った顔なんてかわいかったし・・・
 からかうような感じじゃないし・・・
 しかし、何で手を振ったんだ?
 あんなかわいい子だったら何かあったら絶対覚えてると思うしな。
 亜季もかわいいと思うけど、あの子もなかなか・・・。
 どっちを選ぶ?って言われたらどっちにするか悩むなぁ・・・。
 あの娘もいいけど、亜季もあれで結構シャイなとこあって、
 告白されたときなんか嬉しかったもんな。う〜ん。迷うなぁ・・・。』

だんだん、路を外れていっているのはわかったが、
かといって、記憶の中にはあの娘の手がかりなど、かけらひとつも無く、
こんなことばかり考えていた。

そうしているうちにやはり、
男一人でプールにも浸からずプールサイドに寝そべっているのは居心地悪くて
20分ほど経った頃帰ることにした。

『さぁって。かえるか・・・。』
俺は亜季の忘れていったタオルを持ち帰ろうとフェンス沿いのタオルかけに行ったが、
俺の隣のタオルはすでになくなっているのだった。

『かえろゥ・・・』
                                     

第1章 おわり
                                   

第2章へいく。(第2章も読む)

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