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Sugarpot 書き下ろし
手品師の粉雪

第2章

 1

今日は早く起きた。
昨日、あまりに疲れがたまって、ねむりこけたからだ・・・。

1週間なんて、あっと言う間に過ぎた。
籍をおいている大学は春休み。ということもあって・・・。
バイトに精を出した。
引越しやさん。は良いバイト代にはなるが・・・。
やはり、身体は痛いものがある。
立て続けに重いものをもつだけあって、肩腰はすこし重い。

土曜日の朝。
とても、気分が良い朝だ。
アパートのバルコニーにでて、覗く朝陽。
片手に灰皿。口にくわえたタバコからは紫煙が昇る。

「良い天気だ・・・」
伸びを一つする。


午後12時30分。
渋谷までの電車は、空いていた。
それでも、席に腰掛けられるほどは空いていないのが。。東京という街だ。

僕は、ポータブルMDPlayerを聞いている。
車窓から覗く、あおい空がとても晴れやかだ。
流れていく、街並みも気分が良く見える。
春がすぐそこにある。

渋谷につくと、人はいる。
お昼時もあってか?
すごいひとが歩く。
私鉄のハチ公方面口からでて、ハチ公まであるくだけで人を掻き分けないといけない。

「あっ。草太 (そうた) くん!」
声がする方には、かすみがいた。

 2

かすみは、右手を軽く振って合図していた。
僕は右手を挙げてこたえた。

かすみは、春を先取るような淡いピンクのカーディガンに、真っ白なスカート。
ゆるい風にゆらす、肩より少し長いくらいに伸ばしたセミロングの髪先。
ほんわかとした頬。
にっこりと微笑む笑顔は、かわらない。
やさしい印象が、かわらない。

「ひさしぶり・・・元気だったか?」
「うん・・・。草太君は・・・?」
「あぁ。。あいかわらず・・・だよ。昼飯食ってないだろう・・?」
「えッ。うん・・・。まだ食べてないよ・・・」
「じゃ。食おう!あっちの方にいっぱい『食べ物や』があるから・・・そっちへ歩こう!」

渋谷の街は、すごい。
人だかりが、すごい。
昼も夜も変わらない。人の波。
朝だけがすこし少ないけれど、それでも他の街よりは多くいる。

「結構待ったか・・・?」
「ううん。そんなに待ってないよ・・・」
「そう?」

スクランブル交差点。
この街を一番、象徴している場所だろう。
人と人が通い。すれ違う。
僕らは信号を待つ。

「何を食べたい?」
僕はとなりにいる、かすみに尋ねるようにして振り向いた。
「・・・草太くんの食べたいものでいいよ」
かすみは、澄んだ瞳で見つめるように話す。

「じゃぁ・・・。せっかく渋谷に来たんだし・・・それらしきものが良いよなぁ・・・?」
「だったら。イタメシでも食べよう!」

「うん。」
かすみは頷くと、微笑を向ける。
久しく見なかったが、彼女のほのかな微笑みはかわらない。
その微笑を見たものを、やさしくつつみこむ。

 3

「どう・・・?みんな元気か?」

僕は、スパゲティのカルボナーラを食べている。
につかわない。と自分でも思うのだが・・・。 あえて、スパゲティをたべる。
さっき注文したものが出てきたばっかりだっていうのに、もう完食にちかい勢いだ・・・。
丼・店屋物ならバッチリ。の男には・・・。イタメシはあわない・・・。

「・・・うん。そうだね。」
かすみは、スパゲティを食べる手を休める。

店は「マルゲリータ」という。
センター街をまっすぐに行き、文化村の手前にあるビルの2階。
昼時とあってか?多くのカップルや友達同士の客で混み合っている。

「そうか・・・元気なら良いんだ・・・」
「かすみ。こっちにはどれくらいいるんだ?すぐにまた戻るのか?」


「うん。あさってのお昼の新幹線で帰ることになってるの・・・。」

かすみは、上品に食べる。
僕はもう食べ終わってしまう。
僕にも、いちおう常識はある。別にガツガツ食べたわけではないが・・・。
もともと、早飯食い。なので・・・。しょうがない・・・

「ねぇ。草太くん・・・あのね・・・。」
「羽衣 (うい) のことなんだけど・・・」

「・・・!?」

羽衣。
樫山羽衣。(かしやま うい)。
僕は彼女の名前を忘れない。

羽衣と僕は中学・高校のクラスメイトだ。
いつも、いっしょに下校したり・・・。
寄り道してた。
そんな女の子だ。

笑顔が印象的で・・・。
微笑む横顔が好きだった。
となりで笑った顔をみるたび、僕はいつまでだってこの子と一緒にいたかった。
澄んだ瞳で見つめられるたびに、僕はどこにだって連れて行ってあげたくなった。
羽衣と一緒にいると、やさしくなれるような気がした。

その当時も、付き合っているという感覚は無かったし、
いま、思い浮かべても友達の延長線上になるような2人だったけれど・・・。

羽衣と仲良くなったのは、彼女が図書室のコピー機の操作に手間取っているときだった。
図書委員に嫌々なった、そのすぐの春の日。
羽衣は調べものの本をコピーしようとしたのだが、その方法を知らないようだったから、
図書委員の僕が、かわりにコピーしてあげた。
そんなキッカケで知り合った。

でも。。
彼女とは、いま一切連絡を取っていない。
いや、取れない。というのが現状だ。

高校の卒業を控えた冬。
寒い12月。
冬休みの雪の舞う日。
彼女は、かすみに手紙を託して、この街から出て行った。
どこにいくのか?理由なんて・・・。
手紙には無かった。
ただ、「いままで、ありがとう。また、会おうね・・・。」の言葉。
その一行だけが、良く見かけた羽衣の筆記でかかれていた。

僕は、羽衣がいなくなるなんて、これっぽっちも気がつかなかった。
卒業まで・・・そばにいる・・・。
いや、ずっと、いてくれる・・・。
そばにいてくれる。と思い込んでいた・・・。

だから、いなくなることに気がつかなかった僕は僕自身を責めた。
知っていたからって。いつもの僕よりもっと優しくできたこともないだろうけど・・・。
少しは、羽衣の気持ちにこたえられたかもしれない・・・。
そう、思うと・・・。悔しく思えた・・・。

それから、僕は東京に出る決心がついたのかもしれない。
もしも。羽衣が故郷の「北雪町」にいるなら・・・。
それを。。。それを失ってでも東京には出なかったかもしれない・・・。

5

「羽衣・・・?」
僕は、言葉にならない。言葉が続かない。

「羽衣。東京にいるみたい・・・」
かすみは、淡々とした口調で話し掛ける。

「・・・」
「この前ね・・・。お正月にみんなでクラス会をしよう。って話になったの・・・。
 それで・・・。裕子がみんなの住所を調べてくれたんだけど・・・。
 羽衣の転入先の住所が、東京の世田谷だったの・・・」

「世田谷って・・・。いま、オレが住んでいるところ・・・じゃないか・・・。」

店内の空調は効いている。
すこし、暑いくらいの温度設定だ。
お冷が入ったグラスに水滴があつそうにしている。

「それでね。これが、その住所。」
かすみは、手元のカバンから一片の紙片をとりだすと、僕に手渡した。
受け取って、その字を見る。
とても、読みやすいキレイな字が連なっている。
世田谷区・・・。東虹ヶ丘・・・。僕の今いるアパートのすぐ近くだった。

「・・・かすみ・・・」
「・・・うん?」

「このためにわざわざ、今日は会いにきてくれたのか?」
「・・・ううん。親戚のおうちに用事があったから・・・」

かすみは、いつも。優しい。
優しすぎるくらい・・・。
親戚の家から、1時間もかかって渋谷まで来てくれた。
僕は、言葉じゃ足りないくらい。
それぐらい。かすみには感謝しなければならないのかもしれない。
かすみには、多くのやさしさをもらったままだ。

あの日。
羽衣が突然いなくなった日。
僕に微笑みをかけてくれたのも「かすみ」だった。

東京に上京しても。
連絡を良くくれた。
懐かしい声。やさしい声。がとても嬉しかった。

田舎に帰って、
正月。一緒に初詣に誘ってくれたのも・・・。
「かすみ」だった・・・。

いっぱい、いっぱいの優しさ。をくれる「かすみ」。
言葉じゃ言い足りない気持ち。
それでも、今の僕には言葉に出すぐらいしか出来ない。

「・・・。ありがとう。かすみ・・・」
そう言う僕に、かすみは微笑を向けて頷いた。

次へ。

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