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タイトル  黄 昏  作者 Tao さん


黄 昏


やがて、男が参加していた戦争は終わりました。

それでも男は戦士なので、傭兵になって別の戦争へ行きます。
そこでまた戦って、それが終わるとまた次の戦争へ・・・
そうして、ただただ戦っていました。

ある日、男はなんとなく散歩をしていて、あるお店に入りました。
特に用はなかったのですが、なぜか気になったのです。

そこは不思議なお店でした。
お店にはお爺さんが一人、他には誰もいません。
それはまだ変ではないのですが、売るような品物も何もないのです。
男はお爺さんに尋ねました。

「ここは何の店だ?」

お爺さんは答えます。

「ここは、お客さまに『冒険』を提供する店でございます。」

冒険とは何なのでしょう。
しかし男は戦士なので、こう尋ねました。

「そこに戦いはあるのか」

お爺さんは答えます。

「あなた様が望むのならば、そこに戦いがあるでしょう。」

男はそれで納得して、『冒険』を買う事にしました。
お爺さんにいくらかの(料金は本当に少しでした)お金を払い、奥の部屋に通されます。

「少々時間がかかりますので、紅茶でもどうぞ」

お爺さんが紅茶を注いでくれました。
銘柄だとか、産地だとかを説明もしてくれましたが、
男は興味がないので聞かずにさっさと飲んでしまいました。

「では・・・」

お爺さんが部屋を出ました。

すると、とたんに男は眠くなりました。
時間がかかると言われましたし、男は寝て待つ事にしました・・・・・・

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目が覚めると、男は草原に寝転がっていました。
朝なのでしょうか、涼しい風に乗って、どこかから鳥の鳴き声が聞こえます。

見渡す限りの草原です。
あのお店はどこにもありません。
騙されたにしても何も取られていませんし、
男が見た事もない景色なので、寝ている間に運んだにしても無理があります。

男はとりあえず警戒しました。
いつ戦いになってもいいように訓練されていましたから。

立ちあがって、周りを確認して、それから遠くを見渡します。

よく見ると、遠くに小屋が見えました。
男は少し考えましたが、幸い荷物はそのまま持っていたので、行く事にしました。
荷物には武器がたくさん入っているので、敵がいても何とかなると思ったからです。

途中に敵がいるかも知れないので、武器を一通り身に付けてから、ゆっくりと進みます。

近づくにつれて、辺りのことが分かってきます。

畑がありました。小屋の人はここで生活しているのでしょう。
道もありました。この先は村になっているのでしょう。

そのまま、何事もなく小屋にたどり着きました。

男は少し考えて・・・扉の横に立って、ノックしました。

コン、コン・・・

返事はありません。

男はまた少し考えて、手に持っていた小銃の先で扉を開けました。

バン!

いきなり、銃声とともに扉がボロボロになって勢いよく開きました。

男は素早く腰に付けていたものを手に取り、金具のようなものを外して中に投げ込みました。

・・・・・・ボン!

それは中で爆発して、扉が吹き飛びました。それは手榴弾だったのです。

「・・・・・・・・・」

男はしばらく待ち、誰も出て来ないことを確認すると、中に入ります。

中では、おじさんが一人、倒れていました。
手に猟銃を持っています。これで扉を撃ったのでしょう。

男は小銃でつついたりして、おじさんが動かないことを確認しました。

おじさんは、死んだようです。

バン!

男は動かないおじさんを撃ちました。
男は戦士なので、敵は確実に倒すのです。

男は、おじさんを確実に殺しました。

それから、男は小屋を調べます。

壁に何丁か猟銃が立てかかっている以外は、普通の小屋でした。

ちょうど食事の前だったのでしょうか、
テーブルの上に、いいあんばいに茹でてあるじゃがいもが置いてあります。
毒が入っていては困るので、男は匂いをかぎ、舐めて、安全だと分かってから食べました。

机もあり、日記のようなものもありましたが、男は興味がないので気にしませんでした。

他に気になるようなものはなかったので、男は小屋を出ました。

そこからは、戦いでした。

向こうから歩いてきた若い男が銃を撃ってきたので殺しました。

別の小屋で物影から飛びかかってきたお婆さんを殺しました。

さらに別の小屋の屋根から狙撃してきた若い女を殺しました。

畑で作業していたおばさんがクワの先をすごい勢いで飛ばしてきたので殺しました。

また別の小屋でおじさんを殺し、その影からナイフを持って飛び出してきた男の子を殺しました。

教会では先のとがった十字架を投げてくる神父を、
表紙が鉄でできた聖書で銃を防がれましたがなんとか殺しました。

男も、
女も、
若い男も、
若い女も、
男の子も、
女の子も、
おじさんも、
おばさんも、
お爺さんも、
お婆さんも、
襲ってきたのでみんなみんな殺しました。

そうして、男が来た方向と反対の端っこの小屋でお爺さんを殺しました。
道はくまなく歩いたので、おそらくこれで最後でしょう。

ふと、机の上が目に留まりました。
日記らしきものが開かれたままになっています。書きかけだったのでしょうか。

男は何となく読んでみることにしました。


『○月×日 今日は〜をした。明日は〜をやっておこう。
 ○月△日 今日は〜をした。そういえば〜をやっていない。そのうちやっておこう。
 ・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・
 □月◇日 今日は――』


その日記は、その日した事と次の日からやろうと思うことの繰り返しでした。
まるで、心残りがないようにするような、そんな感じでした。

男は前の方も読んでみることにしました。


『△月□日 今日は〜を殺した。いつからこうなったのだろう?
      誰と会っても殺し合う事になる。
      黙っていては襲われて殺されてしまうから、
      見つけたら先に殺さねばならない。
      老いたこの身と言えど、まだ死ぬつもりはない・・・』


男は少し驚きました。
襲ってきた人は慣れた様子だったのでみんな戦士かと思っていましたが、違うようです。

男は他の小屋でも日記らしき物があった事を思い出し、それらも読んでみることにしました。


『△月◇日 〜(女の名前)が殺されてしまった。
      あぁ、〜、まだまだ美しく成長しただろうに。
      悔しいが、犯人は分からない。
      〜よ、すまない、仇を取ってやれない。本当にすまない。
      せめて〜(男の名前)はなんとしても守らねば・・・』

『○月▽日 あぁ、愛しい〜(女の名前)を殺してしまった。
      僕たちはあんなにも愛し合ったのに。
      彼女は怯え切っていたけれど、まさか僕までも襲うとは・・・
      なぜこんな事になったのだろう?
      戦いたくなどなかったのに、殺したくなどなかったのに・・・!』

『□月×日 今日も一人殺した。
      もう何人殺しただろう?
      彼らには悪いが、まだ死ぬわけにはいかない。
      まだ〜を果たしていないのだ。
      俺は〜のためだけにこうして生きさらばえているのだから・・・』

『○月◇日 神よ、私の信心が足りぬばかりにこのような試練をお与えになったのですか?
      今日も村人はどこかで殺し合っているのでしょう。
      しかし私の力では止める事も叶いません。
      せめて誰か、誰か一人でも神に救いを求める者のために、
      神父として、教会を預かる者として待ち続けていますが・・・
      救いを求める振りをして襲ってくる者のために、
      鉄の聖書で身を守りながら・・・』

『□月△日 〜(男の名前)が、〜が殺されてしまった!
      あの人がいない世界など想像も付かなかったのに。
      もう私は生きて行けないかも知れない、
      けれど、あの人を殺したあいつだけは、
      あいつだけは何としても殺してやる・・・』

『○月×日 ・・・・・・・・・・・・・・・』

『・・・・・・・・・・・・・・・』

『・・・・・・・・・・・・・・・』

「・・・・・・・・・・・・・・・」

男は黙って静かに、最後の日記を閉じました。

なぜこの村がこうなったのか、それは分かりません。

けれど、

人々には、

生き残らなければならない理由がありました。

生き残らなければならない目的がありました。

戦う理由がありました。

戦う目的がありました。

生きる、意味がありました。

どれも、男にはありませんでした。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

男は日記を置くと、すぐに『作業』を始めました。

夜が来て、朝が来ました。

次の夜が来て、次の朝が来ました。

次の次の夜が来て、次の次の朝が来ました。

次の次の次の夜が来る前に、ようやく『作業』が終わりました。

「ふぅ・・・・・・」

男はため息をつき、『作業』の成果を眺めました。

男のいる場所、教会の裏手にある墓地、その奥に、
新しいお墓が、たくさん並んでいます。

男は殺した相手のお墓を作っていたのです。
何が大事なものかは分からなかったので、日記を一緒に埋めました。

なぜそうしたのか、男にも分かりません。
ただ、なんとなく、そうしなければならないような気がしたのです。


一通り眺めて、失敗したところはないか確認したあと、男はゆっくりと歩き出しました。

ずっと作業をしていたのでふらふらでしたが、男はどこかへと歩いて行きます。

男が消え、誰もいなくなった村を、夕陽が赤く照らします。

道を、
畑を、
小屋を、
どこまでも広がる草原を、
夕陽が、赤く赤く染めていました。

それから、

誰も見る人はいなくなった、

とてもとても美しい夕暮れに、

どこからか、

一度だけ、

銃声が響きました――



-終わり-


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